ラケットの握りはショットの再現性を左右し、同じスイングでも打球の質が変わります。アンダーラップはグリップの土台として厚みや硬さ、摩擦、吸汗性を微調整し、試合中の情報量(振動・重みの手応え)を安定させる要です。正しい巻き方は難しくありませんが、角部の処理や巻き始めの固定、重なり幅の一定化を欠くと、数ゲームでズレや浮きが出て集中を損ねます。
本記事ではバドミントンにおけるアンダーラップの役割を整理し、必要な道具、巻く前の準備、手順の細部、素材ごとの特性、重量とバランスの管理、剥がしと再巻きまで段階的に解説します。まずは短時間で実行できる要点から始め、試合前日でも適用できる実践的なチェックリストを添えました。
- 目的を明確化し、厚み・摩擦・吸汗の三要素を決めてから巻く
- 重なり幅は一定(3〜5mm)でテンションを均一に保つ
- 角の浮き対策にカットと折り返しを使い分ける
- 重量とバランスの変化をメモし再現性を担保する
- 剥がし方・糊残り対策までをワンセットで設計する
バドミントンでアンダーラップを巻く手順|失敗しないやり方
まずは「なぜ巻くのか」を言語化し、必要な道具と前準備を整えます。目的が曖昧なまま作業すると厚みが過剰になり、面の向きやヘッドの走りに違和感が出ます。ここでは最短で安定を得るための基本思想と、巻く際の共通ルールを提示します。厚み・テンション・重なり幅の三点を揃えれば、失敗の多くは避けられます。
目的を三分割して設計する
アンダーラップの目的は大きく「厚み調整」「吸汗・衛生」「摩擦(滑り止め)の補助」に分けられます。厚みは指の引っかかりと面の向きの再現性を支え、吸汗は張力の体感変動を抑え、摩擦は握り替え速度と押し込み時の安定を助けます。優先順位を決め、厚みは0.3〜1.2mmの範囲で設計しましょう。
必要な道具と準備
はさみまたはカッター、細幅のテープ(終端固定用)、目安線を引くための水性ペン、汚れ除去用のアルコールシートを用意します。ラケットはグリップ表面を乾拭きし、旧テープの糊残りを除去してから着手します。滑りやすい環境では手を洗って乾かし、作業台の高さを肘より少し低めにするとテンションを一定に保ちやすいです。
手順ステップ
- 旧テープを外し、糊残りを拭き取る
- 巻き始め側の角に合わせ、テープ端を斜めにカット
- 初手2巻は強め、以降は一定テンションで重ね幅3〜5mm
- 角部は折り返しor斜めカットで浮きを予防
- エンドは縁に沿って切り、細テープで固定
重なり幅とテンションの基準
重なり幅は一定が原則です。3mmで薄め・情報量多め、5mmで厚め・クッション多めの傾向。テンションは伸びる素材なら「指先で軽くたわむ程度」に統一し、各周回で強弱を作らないことが重要です。巻き直しは同じ方向に限り、逆回転の上書きは段差の原因となります。
注意:巻き始めを強くし過ぎると、以降のテンション差が生じ、ゲーム中に浮きやズレが出ます。初手2巻のあとに一度緩め、以降を均すと安定します。
角部の処理とエンドの整え方
角は最も浮きやすい箇所です。斜めカットで角を避けて流すか、折り返しで角を包み込み、段差が片側に偏らないよう交互に配置します。エンドは縁に沿って軽く押し込み、固定テープを横方向に張り過ぎないよう注意します。
ミニ用語集
情報量:手に返る微振動と荷重の手応え。
段差:重なりの段差が残る局所的な厚み。
テンション:巻き時に与える引っ張り強度。
折り返し:角を包む処理で浮きを抑える技法。
エンド処理:終端の整えと固定作業。
手の形と握りの科学:フィット設計を最適化する

同じ巻き方でも手の形と握り癖が異なれば最適解は変わります。ここでは親指の当たり、小指の引っかかり、母指球と小指球の厚み差を指標に、厚み分布を再設計します。手汗の量や温湿度の影響も組み込み、季節での再現性低下を避けます。
手型判定で厚み分布を決める
手の幅が広い人は小指側に薄く巻いて握り替えを速く、幅が狭い人は親指側にやや厚みを持たせて押し込み時の面ブレを抑えます。親指を立てる癖がある場合は母指球の下に0.2〜0.3mmを追加し、フォア主体なら人差し指の谷が自然に落ちる角度を探します。
親指と小指の役割を具体化
ドライブ連打では親指の支点が面の復元をコントロールし、レシーブでは小指の引っかかりが高さの微調整を担います。実戦で誤差が出る箇所に合わせ、厚みを微調整すると配球の「到達時間」を揃えやすくなります。
汗対策と摩擦のバランス
汗が多いときは吸汗性優先で摩擦はオーバーグリップ側に任せ、乾燥時はアンダーで摩擦を少し増やしてもOKです。季節での入れ替えを前提に、素材を二種類キープしておくと安定します。
比較ブロック
厚み寄り:面安定と押し込み向上。ただし重量増。
薄さ寄り:握り替えと情報量増。乾燥時は滑りに注意。
ミニチェックリスト
□ 親指の当たりで痛みが出ないか
□ 小指の引っかかりは十分か
□ 汗量に合わせ素材を切り替えられるか
□ 厚み分布の意図を一文で説明できるか
「小指の引っかかりが弱く、レシーブが浮く。小指側を−0.2mmにして握り替えを速くしたら、到達時間が揃いドライブの差し返しが安定した。」
実践手順:均一に巻くための7工程
ここでは写真なしでも再現できるよう、動作と言葉の粒度を揃えました。各工程で意図を確認し、ズレが出やすい箇所にガイドラインを置きます。手順は通しで5〜7分程度を目安にし、試合前は前日までの実施を推奨します。
工程とポイント
手順ステップ
- 基面の清掃:アルコールで拭き、完全乾燥を待つ
- 起点の固定:端を斜めにカットし、2周だけやや強め
- 重なり幅の設定:3〜5mmを指先で測り一定化
- 角の処理:折り返しと斜めカットを交互に使用
- テンション維持:指先で軽くたわむ強さをキープ
- エンドの整え:縁に沿って切り、細テープで留める
- 最終確認:段差と浮き、回転の偏りを触感で点検
失敗しやすい箇所と対策
よくある失敗と回避策
重なり幅の乱れ:目安線を1周だけ引く→以後は触感で追従。
角の浮き:折り返しを片側に偏らせない→交互配置。
終端の剥がれ:横方向に強く引かない→縁へ押し込む。
よくある質問
ミニFAQ
Q. 重なりは薄い方が良い?
A. 情報量は増えますが吸汗とクッションは減少。汗量と競技強度で決めます。
Q. 巻く方向は?
A. 右利きは通常時計回り。逆向きは段差の干渉が出やすいです。
Q. 途中でズレたら?
A. その周回だけ外して同方向に引き直すと段差が残りません。
種類と素材の選び方:特性を理解して失敗を減らす

アンダーラップは素材で性格が変わります。伸縮性や表面の摩擦、吸汗性、糊の強さが異なり、巻きやすさと耐久性のバランスを作ります。ここでは代表的なタイプを比較し、用途に合わせた選び方を整理します。
素材別の特徴
| タイプ | 伸縮 | 吸汗/通気 | 巻きやすさ | 想定用途 |
|---|---|---|---|---|
| 不織布系 | 中 | 中〜高 | 高 | オールラウンド |
| 布テープ系 | 低 | 中 | 中 | 厚みと耐久重視 |
| 紙/和紙系 | 低 | 低〜中 | 中 | 薄巻き・情報量重視 |
| フォーム系 | 高 | 中 | 中 | クッション・吸汗補助 |
粘着の有無と幅・長さ
自己粘着タイプは巻き直しが容易で段差が出にくく、背面粘着タイプは固定力が高いです。幅は25mm前後が標準、細幅は角処理が楽ですが周回が増えます。長さはラケット1本で1.3〜1.6mを目安にし、余りでエンドだけ二重にする方法もあります。
購入時のチェックポイント
- 巻き戻し時に繊維が裂けないか(サンプルで確認)
- 糊の残りやすさ(レビューの写真を参照)
- ロット差の有無(色味・厚み・粘着力)
- 季節在庫(夏は吸汗性、冬は薄巻きの需要増)
注意:フォーム系は厚みが増えやすく重量変化が出やすいです。バランスが先端側に寄ると取り回しが重くなるため、後述の重量管理と併せて判断しましょう。
セッティング最適化:厚み・重量・バランスの管理
巻き方の良し悪しは、重量とバランスの変化を数値化して初めて再現できます。ここでは計測のコツと、張力やオーバーグリップとの相互作用を整理します。数値→体感→修正の順で回すと、短いサイクルで最適点に近づけます。
重量とバランスの計測
キッチンスケールで1g単位、バランスは定規やバランサーで計り、巻く前後の差を記録します。アンダーラップの追加で+1〜3g、バランスは−2〜−6mm(手元寄り)になることが一般的です。重くなり過ぎたら重なり幅を3mmに狭め、素材を薄い系へ変更します。
張力・ストリングとの相互作用
厚みが増えると手元情報が柔らかくなり、同じ張力でも体感テンションが下がるように感じます。弾きが鈍る場合は+0.5〜1lbsへ、ブロックの高さが不安定なら−0.5lbsに振って球持ちを増やすなど、ショットの役割で調整します。
オーバーグリップと併せた設計
オーバー側で摩擦と吸汗を主に担い、アンダーは厚みとベースの平滑化に専念させると安定します。汗が多い日はオーバーを交換頻度高めにし、アンダーは大会ごとに入れ替える運用が目安です。
ミニ統計
・重なり3mm→情報量高、握り替え速度↑。
・重なり5mm→クッション↑、手首負担↓。
・+1gの増加で先端走りは微減する傾向。
比較ブロック
情報量重視:薄巻き+やや高テンション。
安定重視:厚め+テンション据え置きでブロック安定。
ベンチマーク早見
・増量は+2g以内を目標。
・バランス変化は−3〜−5mmで手元寄り安定。
・記録は「素材/幅/重なり/張力/結果」を一行で。
交換とメンテナンス:剥がし方と再巻きのルーチン
巻いて終わりではなく、剥がしと再巻きまで含めて一連のルーチンにすると品質が保てます。糊残りを最小化し、臭いや衛生面の問題を抑え、試合前の不安を無くしましょう。保管と運搬も小さな工夫で差が出ます。
剥離の手順とコツ
手順ステップ
- 端を見つけ、テープの繊維に沿ってゆっくり剥がす
- 糊が残った箇所はアルコールで湿らせて拭取る
- 溝や角は綿棒でピンポイントに処理
- 完全乾燥を待ち、新しいアンダーを巻く
べたつき・臭い・衛生の管理
汗や湿気が残ると臭いとべたつきの原因になります。練習後は乾いたタオルでグリップを拭き、ケースに乾燥剤を入れます。高温の車内放置は糊の劣化を早めるため避けましょう。オーバーは頻度高め、アンダーは大会単位の交換が目安です。
よくある質問
ミニFAQ
Q. 糊残りがひどいときは?
A. 無水エタノールは溶解力が強い反面乾燥が速いです。テストしてから部分使用を。
Q. いつ交換する?
A. エッジの浮きや段差、臭いが出たらサイン。試合前に新調すると集中が保てます。
Q. まとめ巻きは?
A. 二本以上同日に行うと重なり幅の癖が揃い、再現性が上がります。
ミニチェックリスト
□ 剥がし→清掃→乾燥→再巻きの順で実施した
□ 重量とバランスを再計測した
□ 交換日と素材・重なり幅を記録した
まとめ
アンダーラップはバドミントンの握りを土台から整え、面の再現性と到達時間の揃えに直結します。目的を「厚み・吸汗・摩擦」に分け、重なり幅3〜5mmと一定テンションで巻けば、大半の不具合は回避できます。素材は不織布・布・紙・フォームの特性を理解し、季節と汗量で切り替えましょう。
数値(重量・バランス)→体感→修正の順で運用し、剥がしと再巻きまで含めたルーチンを確立すれば、試合ごとに同じ握りを再現できます。今日の練習前に、旧テープの糊を落とし、重なり幅を3mmで統一して巻くことから始めてみてください。


